僕の季節は秋になる。【第1話】

木枯らしが吹きすさぶ歩道。道行く会社員や学生や主婦、街に至るまで、冬の装いをしている。
落ち葉がある。
すっかりくたびれたその色はまるで、かつて自分が赤かったことを忘れてしまったようだ。
夕焼けに影は長く伸び、街頭は早くも仕事を始めている。
秋姉妹のことを思い出す。彼女達はどこへ行ったのだろうか。
今思い出しても、あの時のことは夢のようだった。いや、本当に夢だったのかもしれない。
レティミネーターと呼ばれる、未来からの来訪者とそれに追われる二人の女の子、秋姉妹。僕は騒動に巻き込まれた。夏が終わる頃のことだった。
  ◆
信じられない話だが、この世には幻想郷という僕たちの世界とは隔離されている世界があり、姉妹はそこから逃げてきたという。
幻想郷への扉が開いたところに偶然出くわした僕に、彼女たちは助けを求めてきた。パニックで殆ど何も考えられなかったが、ひとつだけ思った、なぜ僕が?
しかし目を見ればわかるのだ、彼女たちは本気だった。本気で迫り来る危険から逃げている。僕は結局、彼女たちを見捨てることが出来ず、少しの間、家にかくまうことにしたのだ。
凶悪なレティミネーターは、恐ろしかった。笑顔で迫り来るサイボーグに、最初は恐怖し、震えもした。
だが、姉妹の恐怖とは果たして、どれほどのものだっただろうか。毎年、冬が来る度に命を狙われている。
なのに、それなのに、何故彼女たちはこんなに笑顔が素敵なのだろう。姉妹は他愛のないことでも喜び、悲しんだ。それはきっと今を精一杯生きているからだと感じた。歩道の並木が紅葉で真っ赤になる頃には、僕の季節も、すっかり秋になっていた。
そして別れは来る。
息を切らして逃げて来た夜の境内で、姉妹は信じられない決断をした。
「どうしてだよ……なんで、"自分たちから消える"って……それって死ぬってことじゃないのかよ!!」
僕は激しく狼狽した。まさか姉妹がそんな選択をするなんて思わなかったから。
「ううん。私たちは姿を消すだけ。そうすればレティミネーターは追って来れない」
「でも、来年の秋までは出て来れないの」
僕は怒りとか悲しみとか苦しみとか、沢山の感情で一杯になって、どうしようもなくなって泣き出した。
「なんで消えるんだよ……君たちは何も悪くないのに……!」
嗚咽まじりの声は、大層みっともなかっただろうが、僕にはそれを止めることができなかった。
「だってそうだろ…?この世界では春も夏も秋も冬も!誰もがその季節を生きることができる!その季節の中で僕たちは勉強して、遊んで、新しい発見をして、楽しんで、悲しんで、笑って、泣いて、恋をして……!」
姉妹は、跪いて泣く僕の頭を抱きかかえた。
表情は見えなかったが、泣いていたのがわかった。
「また、会えるよね――」
「きっと、会えるよ――」
僕は後に、この時泣いてしまったことを後悔する。この時僕がそれに気付けていたら、きっと姉妹は来年の秋まで、安らかに眠りに着くことができたのに。
レティミネーターの放った2本の氷柱は、それぞれ姉妹の胸を貫通していた。
目の前が赤いのは、なぜだろうか。紅葉だろうか。あの並木道のように、真っ赤に散――
姉妹の姿が下にスライドし、ドサリ、と音がした。向こうにはただ、笑うレティミネーターの姿があった。
  ◆
それからのことはよく覚えていない。姉妹の姿も、レティミネーターの姿も、気付いたら消えていたのだ。
あの時から拳が、時折痛む。レティミネーターの面に一発でもお見舞いしてやれたのだろうか。
何も思い出せない……。
しかし、これだけはハッキリと言える。
 
――僕は、春と夏と冬を敵に回した。
 

 
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くろぶたです。ごめん何でこんなの書いたのか自分でもよくわからないwwww
続くっぽいこと書いてあるけど、続ける予定はありません。
もう何ていうの、本当に俺中二病でよかったと思うよ。